「カビ毒」を不安に思うあなたへ。焙煎幸房“そら”が伝えたい、コーヒーの本当の安心と美味しさの基準
「カビ毒」を不安に思うあなたへ。焙煎幸房“そら”が伝えたい、コーヒーの本当の安心と美味しさの基準
「毎日飲んでいるコーヒーに、カビ毒が含まれているかもしれない」
そんな言葉を見かけて、不安になったことはありませんか?
先に結論からお伝えします。
日本で正規に流通しているコーヒーを、日常的に飲む分には、過度に恐れる必要はありません。
ただし、「何も気にしなくていい」でも、「高価なカビなしコーヒーでなければ危険」でもありません。
大切なのは、言葉の強さではなく、管理の中身です。
この記事では、コーヒー豆屋「焙煎幸房“そら”」が、科学的な根拠(エビデンス)に基づき、 カビ毒(マイコトキシン)の正体と、冷静で後悔しないコーヒー豆の選び方をお伝えします。
1. コーヒーのカビ毒(オクラトキシンA)とは?
まず知っておいてほしいのは、コーヒーに関係するカビ毒は、実際に存在するということです。 代表的なのが オクラトキシンA(Ochratoxin A)。
化学式は $C_{20}H_{18}ClNO_{6}$ と表されます。
この物質は、特定のカビ(Aspergillus属、Penicillium属)が産生し、 コーヒーに限らず、穀物、ワイン、ドライフルーツなど、 私たちの身近な食品でも問題になることがあります。
ここが重要です。
カビ毒の話は「ある・ない」で語られがちですが、本質はそこではありません。
「どの程度含まれているか」、 そして「どれだけ低く管理されているか」が重要です。
参照元:
農林水産省「かび毒(オクラトキシンA)について」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/kabidoku/
2. 日本のコーヒーは、どうやって管理されているのか?
まず押さえておきたい事実があります。
日本では現時点で、コーヒー(生豆・焙煎豆・粉)に対して 「◯ μg/kg 以下」といった形のオクラトキシンAの最大基準値は、 公的に明示されていません。
ただし、これは「放置されている」という意味ではありません。 厚生労働省は、オクラトキシンAについて、 健康影響が大きいと考えられる食品から優先的に リスク評価と基準整備を進めています。
現在は、小麦や大麦などの麦類を対象に、 5 μg/kg を超えないといった成分規格の検討が進められており、 食品安全委員会に対して食品健康影響評価が依頼されています。
一方、コーヒーについても 「オクラトキシンAによる汚染が起こり得る食品」として位置づけられており、 国際的な枠組みを踏まえた管理が前提となっています。
実際、国際的にはコーデックス(Codex)が コーヒーを含む食品におけるカビ毒低減のための実施規範 を定めており、日本の輸入・流通現場でも、 こうした国際基準を参考にした検疫や自主検査が行われています。
つまり現在の状況は、
「国際的なルールと監視のもとで管理され、
さらに日本でも、食品ごとの優先度に応じて ルール整備が段階的に進められている」
という状態だと言えます。
参照元:
食品安全委員会「オクラトキシンAに関する食品健康影響評価の要請(2024年)」
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?fileId=210&retrievalId=kai20240321ks1
厚生労働省「食品中のカビ毒に関するリスク管理資料」
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001177200.pdf
3. 焙煎でカビ毒はどうなるのか?
もう一つ、安心材料として知っておいてほしいのが焙煎の影響です。
複数の査読付き研究により、 コーヒー豆を焙煎することで、オクラトキシンAは 大きく低減することが分かっています。
研究によって差はありますが、 約69〜96%程度の低減が報告されています。 焙煎条件によっては、8〜98%と幅があることも確認されています。
大切なポイント
焙煎は「リスクを下げる方向に働く工程」ですが、 温度・時間・豆の状態によって結果は変わります。
単一の数字で断言しないことが、正確な理解につながります。
参照元:
van der Stegen et al., 2001(PubMed)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11600012/
Ferraz et al., 2010(Food Control)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0956713509003260
4. 「カビなしコーヒー」が高価な理由
「カビ毒なし」「マイコトキシンフリー」と強調されたコーヒーが、 一般的なコーヒーより高価になりやすい理由は、主に次の2つです。
- 追加検査のコスト:ロットごとの外部検査費用
- ブランディング:「安心・安全」という言葉の付加価値
ただし冷静に見ると、 「ハンドピック」「トレーサビリティ」「オーガニック栽培」は、 スペシャルティコーヒーでは特別なことではありません。
それ自体が「特別に安全」であることの証明になるわけではない という点は、知っておいてほしいところです。
また、ロットごとに外部検査をしているかどうかは不明です。
簡単に言うと1回のみ検査をしてそれを証明としている可能性もあります。
5. プロが見る「言葉の矛盾」
ここからは、コーヒー豆屋として少し踏み込んだ視点でお話しします。
最近よく見かけるのが、 「特殊技術でカビ毒を取り除いた」 「独自技術でカビ毒を排除した」 といった表現です。
ただ、そうした文言が使われていても、 具体的に「どの工程で」「どのように」「どの程度」低減しているのかが、明確に示されていないケース も少なくありません。
もし仮に、本当に特殊な技術や独自の方法があるのであれば、 お客様のことを考え、その内容をできる範囲で明確に説明するのが、一般的だと考えます。
それが示されていない場合、 「特殊技術」「独自技術」という言葉自体が、 実は特別でも独自でもない一般的な工程を、 強い言葉で表現しているだけ、という可能性も否定できません。
また、「船便による長期輸送でカビが発生するリスク」を強調する表現も見られます。 しかし、本当にそのリスクを最小限に抑えたいのであれば、 高コストでも空輸を選ぶという判断になるはずです。
実際には、多くの場合で通常の船便が使われています。 これは、船便そのものが危険という意味ではなく、 管理と検疫が前提となった輸送手段だからです。
この点については、業界団体である 全日本コーヒー公正取引協議会(AJCFT)も、公式に見解を示しています。
AJCFTの資料では、日本で販売されるコーヒーは、食品衛生法に基づく輸入食品検疫を受け、 カビ毒(オクラトキシンA等)についても問題のないものが流通していると説明されています。 また、水濡れや結露などによって品質に問題のある生豆は、 検疫段階で排除される仕組みがあることも明記されています。
つまり、「特別な除去技術があるから安全」なのではなく、 産地での管理、輸送、検疫、選別、焙煎といった 一つひとつの工程が積み重なって、安全性が担保されています。
そらは、 「強い言葉」よりも、 誰が、どこで、どう育て、どう運び、どう扱った豆なのか という透明性こそが、本当の安心につながると考えています。
参照元:
全日本コーヒー公正取引協議会(AJCFT) 「『カビ無しコーヒー豆』等の表示に関する考え方(2019年)」
https://www.ajcft.org/news/up_files/20190725.pdf
6. 本当に安心で美味しい豆の選び方
- 焙煎日が明確で、回転が早いこと
- 欠点豆除去について、具体的な説明があること
- 作り手の考え方や姿勢が見えること
そらから
私たちは、カビ毒を「消す」ために豆を選んでいるのではありません。
最高に美味しい一杯を届けるために、美しい豆を選んでいる。
その結果として、カビ毒のリスクが極限まで抑えられているだけです。
「安全」を目的にするのではなく、 「美味しい」を突き詰めた結果としての安全。 それが、そらの考え方です。
よくある質問(Q&A)
Q. 「カビ毒なし」と書いてあれば完全に安全ですか?
いいえ。「完全にゼロ」を科学的に証明することはできません。
多くの場合は「検出限界以下だった」「基準値を十分に下回っていた」という意味を、 分かりやすく表現しているものです。
Q. 毎日コーヒーを飲んでも問題ありませんか?
一般的な飲用量であれば、 健康リスクは非常に低いと国際的に評価されています。
参照元:
EFSA(欧州食品安全機関, 2020)
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2903/j.efsa.2020.6113
※この記事は、特定の商品・ブランド・店舗を否定または推奨することを目的としたものではありません。
コーヒーに関する一般的な科学的知見と、焙煎幸房“そら”としての考え方をお伝えするための記事です。