コーヒーのカビ毒は危険?「カビ毒なし」「検出」の意味をコーヒー豆屋が根拠つきで解説

木のトレーに広げたコーヒーの生豆を手で選り分けているイラスト。「コーヒーのカビ毒は危険?」の文字

最終更新:2026年9月(公的資料の更新に合わせて内容を見直しています)

「毎日飲んでいるコーヒーに、カビ毒が含まれているかもしれない」

そんな言葉を見かけて、不安になったことはありませんか?

最初に知ってほしい3つのこと

  1. 「カビ毒なし」という表示がないだけで、そのコーヒーを危険と判断する必要はありません。
  2. 「検出された」と「危険」は別の話です。大切なのは、含まれる量と、食事全体から体に入る量です。
  3. 「なし」「不検出」は、ゼロの証明ではありません。「その検査で測れる量より少なかった」という意味です。

「毎日飲んでも大丈夫?」が気になる方は、よくある質問へどうぞ。この記事は、特定の商品やお店を批判するためのものではありません。表示の読み解き方の話です。

この記事では、コーヒー豆屋「焙煎幸房“そら”」の僕が、公的な資料と研究をもとに、分かっていること・分かっていないこと・そらで実際にしていることを分けてお伝えします。長めの記事なので、気になるところからどうぞ。


1. カビ毒とは? どこで生まれるのか

まず、コーヒーに関係するカビ毒は実際に存在します。代表的なのがオクラトキシンA。特定のカビが作る物質で、コーヒーに限らず、穀類、ワイン、カカオ、香辛料など、身近な食品でも対策が取られています。

では、どこで生まれるのか。食品の国際基準をつくるコーデックス委員会(FAO/WHO)は2009年に、コーヒーのオクラトキシンAを防ぐための手順をまとめています。そこで柱になっているのは、収穫したあとの扱いです。

  • 収穫した実は、できるだけその日のうちに乾かし始める
  • 豆の水分を12.5%以下まで乾かす
  • 保管中・輸送中に、もう一度湿らせない

つまり、カビ毒をあとから完全にゼロにする技術があるわけではなく、産地で早く乾かし、湿らせずに運ぶという基本の積み重ねが対策の中心です。(収穫前の木の上で感染する可能性にも触れられていますが、こちらははっきりしていない、とされています。)

参照元:
農林水産省「いろいろなかび毒」
コーデックス委員会「コーヒーのオクラトキシンA汚染の防止・低減に関する実施規範」(CAC/RCP 69-2009)

2. 「半分以上から検出」でも、危険とは限らない理由

「市販のコーヒーの約半分からカビ毒が検出」。こういう言葉を見ると、ドキッとしますよね。

実は、これに近い数字は日本の公的な調査にもあります。食品安全委員会の資料に収められた2004〜2009年度の国内調査(厚生労働科学研究)では、焙煎コーヒー84検体のうち46検体(54.8%)からオクラトキシンAが検出されています。

「え、じゃあ危険なの?」と思われたかもしれません。ここが、カビ毒の話でいちばん誤解されやすいところです。

見るべきは「検出されたか」ではなく「どのくらいの量か」です。
同じ調査での濃度は、平均でコーヒー1kgあたり約0.16〜0.18マイクログラム、いちばん高いものでも2.75マイクログラムでした(マイクログラムは100万分の1グラム)。
参考までに、EUが2023年1月から適用している焙煎コーヒーの上限は1kgあたり3マイクログラムです(調査当時のEUの上限は5マイクログラムでした)。時期も国も違うので、同じものさしでの比較ではありません。あくまで量の感覚をつかむための目安です。

検査の技術が上がるほど、ごく微量でも「検出」されるようになります。だから「◯%から検出」という数字だけでは、安全とも危険とも判断できません。

体に入る量については、食品安全委員会が2014年に、コーヒーだけでなく食事全体からのオクラトキシンAの摂取を評価しています。推計では、摂取量の多い層でも耐容一日摂取量(一生食べ続けても健康への悪影響がないと推定される量)を下回っていて、食品からの摂取が一般的な日本人の健康に悪影響を及ぼす可能性は低い、という結論でした。

ただし、これは「コーヒーは安全」というお墨付きではありませんし、調査も古いものです。食品安全委員会では現在、新しい知見を踏まえた評価の見直し(第2版)が審議されています(2026年7月時点)。結論が出たら、この記事も更新します。

参照元:
食品安全委員会 第25回かび毒・自然毒等専門調査会 資料「国内汚染実態調査結果データ集」(2013年・PDF)
食品安全委員会 e-マガジン「オクラトキシンA その1」(2014年)
食品安全委員会 第66回かび毒・自然毒等専門調査会(2026年7月)

3. 「カビ毒なし」と「不検出」の意味

「カビ毒なし」「マイコトキシンフリー」と書かれたコーヒーがあります。ここは2つに分けて考えると、すっきりします。

① 「カビ毒なし」という言葉だけの場合
その言葉だけでは、何を、どのように確認したのかが分かりません。良いとも悪いとも、判断のしようがない状態です。

② 検査結果として「不検出」と示されている場合
これは「その検査で測れる下限(検出限界)を下回った」という意味です。きちんと検査をしたという事実ですが、完全なゼロを証明するものではありません。どんな検査にも「これ以下は測れない」という限界があるからです。

検査結果を見るときの4つのポイント
・何を検査したか(オクラトキシンAか、アフラトキシンか)
・検出限界はいくつか
・いつ検査したか
・どのロット(どの入荷分)が対象か
この4つが書かれていれば、その表示は中身のある情報です。

なお、業界団体の全日本コーヒー公正取引協議会は2019年に、「カビ無しコーヒー豆」という表示について見解を出しています。日本で販売されるコーヒーは食品衛生法にもとづく輸入時の検疫を受けていて、「カビ無し」と書かれていなくても安全なコーヒーといえる、という内容です。ただしこれは、コーヒー業界の団体が出した見解です。公的機関が「安全」と結論づけた文書ではない点は、分けて受け取ってください。

農園や作り手の情報も、豆を選ぶうえで大切な材料です。ただ、それは「どんな人がどう作ったか」の情報であって、カビ毒の量を確認したことにはなりません。作り手の情報と、検査で確認できることは、分けて考えるのが良いと思います。

参照元:
全日本コーヒー公正取引協議会「『カビ無しコーヒー豆』と称する製品に関しての見解」(2019年7月)

4. オーガニックならカビ毒は少ない?

「有機栽培なら安心」「農薬を使わないから、逆にカビが心配」。どちらの声も聞きます。

研究を見るかぎり、今のところどちらとも言えません。

  • ブラジルの研究(2013年・生豆30検体)では、有機栽培と慣行栽培(有機ではない、ふつうの栽培)で、オクラトキシンAを作るカビの見つかり方に差はありませんでした。
  • メキシコ・チアパス州の市販コーヒー100検体を調べた研究(2021年)でも、有機か慣行かでオクラトキシンAの量に差は見られず、差が出たのは品種・精製方法(収穫した実から豆を取り出す方法)・焙煎の有無のほうでした。

第1章のとおり、決め手は栽培方法よりも、収穫後にどう乾かし、どう保管したかのようです。

有機JASも「農薬や化学肥料に頼らない栽培方法」の認証であって、カビ毒対策の認証ではありません。そらでも有機JAS認証取得生豆を使用した豆(東ティモール ゴウララ)を扱っていますが、それを理由に「カビ毒なし」とは言いません。言えないからです。

参照元:
Rezende ほか, 2013年の研究(PubMed)
Aguilar-Alvarez ほか, 2021年の研究(Food Control誌)

5. 日本ではどう管理されているのか

「国が検査している」とひとまとめに語られがちですが、正確には3つに分かれます。

  • 国の輸入時の検疫
    輸入食品は食品衛生法にもとづく監視の対象です(すべての荷物を検査するわけではありません)。コーヒーについて協議会の見解が挙げているのは、残留農薬と、カビ毒のうち総アフラトキシンです。オクラトキシンAとは別のカビ毒です。
  • 業界の自主検査
    全日本コーヒー協会が毎年、日本の生豆輸入量の99.7%にあたる24か国分について、年1回、総アフラトキシンとオクラトキシンAの両方を登録検査機関で分析し、リスクの高い国からの輸入に注意している、とされています(2019年の見解による)。
  • 産地での予防
    第1章で紹介したコーデックスの実施規範(2009年)です。

そのうえで、知っておいてほしい事実があります。
日本では現時点で、コーヒーのオクラトキシンAについて「1kgあたり◯マイクログラム以下」という数値基準は定められていません。

2024年に厚生労働省が食品安全委員会に評価を求めたのは、小麦と大麦に基準値を設けることについてで、コーヒーの基準づくりではありません。一方で、オクラトキシンAという物質そのものの評価は、第2章のとおり見直しが進んでいます。

つまり、「コーヒー専用の数値基準はない。ただし、輸入時の検疫・業界の自主検査・産地での予防という3つの仕組みがある」という状態です。

参照元:
全日本コーヒー公正取引協議会の見解(2019年7月)
厚生労働省から食品安全委員会への評価要請(2024年2月・小麦と大麦の規格について・PDF)

6. 焙煎するとどうなる?

焙煎によってオクラトキシンAが減ることは、複数の研究で報告されています。ただし、減り方は条件によって大きく変わります。

自然にカビ毒が付いた生豆を、実際のお店や工場に近い条件で焙煎した研究(2001年)では、平均で約7割減りました。一方、温度と時間を細かく変えた別の実験(2010年)では、1割未満からほぼ全部まで、結果に大きな幅がありました(こちらは人工的にカビを付けた豆を、実験用の装置で焼いた研究です)。

ですから、焙煎は「カビ毒をゼロにする工程」ではなく、「減らす方向に働く工程のひとつ」と考えるのが正確です。

コーヒー豆屋として正直に言うと、自分の焙煎機で何%減っているかは、測っていないので分かりません。

参照元:
van der Stegen ほか, 2001年の研究(PubMed)
Ferraz ほか, 2010年の研究(Food Control誌)

7. そらで行っていること・確認できていないこと

特別な技術はありません。書けるのは、当たり前のことだけです。

行っていること

  • 仕入れ先や生産・精製の情報を確認し、実際に飲んで豆を選ぶ
    ただし、価格やグレード、生産者の情報だけで、カビ毒の有無や量を判断することはできません。高い豆だから安心、安い豆だから危険、とも言えません。
  • 生豆を長く置かない
    お店に専用の生豆倉庫があるわけではないので、温度と湿度は「できる範囲で」の管理です。その代わり、多くの豆は3か月ほどで使い切ります。早いときは30kgが2週間でなくなります。
  • 焙煎の前と後、2回のハンドピック
    カビが生えたような豆、黒く変色した豆、発酵したにおいの豆、虫食いのひどい豆を手で取り除きます。コーデックスの実施規範でも、黒豆や発酵豆といった欠点豆はオクラトキシンAが多い傾向があったとされています。ただし、見た目だけでカビ毒の有無は判断できません。ハンドピックで「カビ毒なし」を保証することはできません。僕がこれをやっているいちばんの理由は、雑味のもとを外して味を整えるためです。
  • 焙煎した日に発送する
    これはカビ毒対策ではありません。単純に、その方が香りも味も美味しいからです。袋に焙煎日は印字していませんが、焙煎した日にしか発送しないので、発送通知の日付がそのまま焙煎日です。

確認できていないこと

  • そら自身では、オクラトキシンAの検査を行っていません。
  • そらの焙煎機で、カビ毒がどれだけ減っているかは測っていません。

そらから
だから、そらは「カビ毒なし」とは言いません。言えるのは、何をしていて、何をしていないか、だけです。
僕は、カビ毒を「消す」ために豆を選んでいるのではなく、美味しい一杯を届けるために、きれいな豆を選んでいます。

8. 家庭での保存と、異常があったとき

焙煎した豆は乾燥しているので、乾いた状態を保てていれば、カビが生えることはまずありません。気をつけたいのは湿気です。

そらでは冷凍保存をおすすめしています。到着後、袋のまま冷凍庫へ。使うときはサッと取り出し、なるべく空気を入れないようにチャックをして、すぐ冷凍庫に戻してください(出しっぱなしにすると結露して、豆が湿気を吸います)。

飲み切りの目安は1か月ほどです。ただしこれは美味しく飲める期間の目安であって、「1か月以内なら安全・過ぎたら危険」という意味ではありません。

豆の表面に白や緑のふわっとした点がある、湿ったようなカビくさいにおいがする。そんなときは、もったいなくても飲まずに処分してください。

まずは一度、そらの豆を飲んでみたい方へ

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よくある質問(Q&A)

Q. 「カビ毒なし」と書いてあれば完全に安全ですか?

言葉だけでは、何をどう確認したのかが分かりません。検査結果が「不検出」の場合も、「その検査の検出限界を下回った」という意味で、完全なゼロの証明ではありません。逆に、表示がないコーヒーを危険と考える必要もありません。

Q. 毎日コーヒーを飲んでも問題ありませんか?

食品安全委員会は2014年に、食事全体からのオクラトキシンAの摂取について「一般的な日本人の健康に悪影響を及ぼす可能性は低い」と評価しました(コーヒーだけを評価したものではありません)。現在は、新しい知見を踏まえた見直しが審議されています。

一方、欧州食品安全機関(EFSA)は2020年、「これ以下なら安全」という量を決める方法をやめ、より慎重な評価方法に切り替えました。その結果、食事全体からの摂取について、発がん性の面や、子どもなど若い世代でたくさん摂る層では「健康上の懸念の可能性がある」としています(不確実性が大きく、リスクを大きめに見積もっている可能性がある、とも書かれています)。これはコーヒー単独の評価ではなく、主な摂取源として挙げられたのは保存肉・チーズ・穀類などでした。

日本と欧州で見方が分かれている、というのが正直な現状です。

僕は医師ではないので、「何杯までなら大丈夫」とは言えません。持病のある方や妊娠中の方など、ご自身の体調に不安がある場合は、かかりつけの医師にご相談ください。

参照元:
食品安全委員会 e-マガジン(2014年)
欧州食品安全機関(EFSA)2020年の評価

Q. デカフェ(カフェインレス)はカビ毒が多いと聞きました。本当ですか?

「カフェインにはカビを抑える働きがあるから、抜くとカビ毒が増える」という説ですね。カフェインがカビの生育を抑えることは、実験室での試験では報告されています。

ただ、実際の製品を調べたデータは逆の傾向です。ドイツの公的検査(1995〜1999年・613検体)では、オクラトキシンAの中央値は通常の焙煎コーヒーが1kgあたり0.6マイクログラム、デカフェの焙煎コーヒーが0.4マイクログラムでした。農林水産省の資料にも「コーヒーの脱カフェイン工程では約90%減少」との報告が紹介されています。

デカフェだからカビ毒が多い、とは言えません。

参照元:
Otteneder・Majerus, 2001年の研究(PubMed)
農林水産省「リスクプロファイルシート(オクラトキシンA)」(2014年)

Q. コーヒーを飲むと頭がぼーっとします。カビ毒のせいですか?

僕が調べた範囲では、コーヒーに含まれるオクラトキシンAと、そうした体調の変化を結びつけた人での研究は見当たりませんでした。米国のコーヒー業界向けにまとめられた2021年の論文も、コーヒーなどからのオクラトキシンAが人に急性の毒性を示すという証拠は見つからなかった、としています。

カフェインの量、空腹で飲んだかどうか、その日の体調など、ほかの要因も考えられます。気になる症状が続くときは、自己判断せず医師にご相談ください。

参照元:
Heintz ほか, 2021年の論文(Journal of Food Science誌)

Q. 開封したコーヒー豆にカビは生えますか?

湿気を吸うと生えることがあります。袋の空気を抜いて密閉し、冷凍庫で保存してください。白や緑の点、湿ったにおいがあれば、飲まずに処分を。詳しくは第8章をご覧ください。

※この記事は、特定の企業や商品を批判する意図はありません。また、医療上の助言ではありません。「カビ毒」に関する情報の読み解き方と、焙煎幸房“そら”としての考え方をお伝えするための記事です。引用した資料には発行年を付けています。制度や評価が更新されたら、内容を見直します。

そらからひとこと

コーヒーは、不安を感じながら飲むものではなく、日常の中でホッとできる時間のためのものだと思っています。
強い言葉に出会ったときは、「何を、どう確認したのか」を見てみてください。それだけで、振り回されることはぐっと減ると思います。
この記事が、その判断材料のひとつになれば嬉しいです。

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